2018.08.24更新

初めまして獣医師の吉村清司[よしむらきよし]と申します。本年3月より勤務しております。一般診療を担当しますが、特に整形外科症例の手術が得意分野です。よろしくお願いいたします。

赴任以来準備をすすめてまいりました「膝蓋骨脱臼」の手術が当院でも可能となりました。以下、膝蓋骨脱臼について簡単に説明させていただきます。

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・膝蓋骨脱臼とは?  膝蓋骨(膝のお皿)は膝を伸ばす筋肉(大腿四頭筋)の腱(膝蓋腱)にある小型の骨で、膝関節にある大腿骨の溝(滑車溝)の上を滑ることで、大腿四頭筋の働きを助け安定させるためにあります。膝蓋骨脱臼(膝蓋骨が溝から脱線すること)は成長期において膝蓋腱と滑車溝の位置関係がずれていくことによって起こります。膝蓋骨が滑車溝の上に無いことで圧迫刺激を受けない膝蓋溝は浅くなってしまい、さらに膝蓋溝から脱線しやすくなります。

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・膝蓋骨脱臼の問題は? 膝蓋骨脱臼をかかえる多くの若齢犬はたまに違和感を訴えるか、もしくはまったく症状を示しません。では、膝蓋骨脱臼の問題はどこにあるのでしょう?
膝蓋骨と滑車溝の接する部分は摩擦を無くすために、お互い非常に滑らかな「硝子軟骨」で覆われています。膝蓋骨が脱臼するとこの硝子軟骨が削れてゆき、徐々に痛みが発生します。そして一度削れてしまった硝子軟骨は再生しません。つまり、膝蓋骨脱臼の問題は脱臼することそのものよりも「進行する硝子軟骨の損傷」にあるといえます。180824-3
 また、膝蓋骨が脱臼することで通常とは違った方向から力がかかる膝の支持組織(関節包や靭帯)も損傷を受け、膝の関節自体が非常に不安定な状態になります。硝子軟骨の損傷や膝関節の不安定性は結果として慢性関節炎を引き起こします。

・膝蓋骨脱臼の対処方法 脱臼の程度がひどく、将来的に膝の痛みが出ると予測される場合は、手術を含めた積極的な治療が必要です。膝蓋骨が脱臼する限り軟骨障害は進行し続けるため、膝蓋骨の位置をできるだけ溝の上に安定化させる必要があります。「大腿四頭筋腱の位置」や「溝の深さ」の問題、つまり形の問題であるため内科治療には限界があり手術が必要になります。

現在最も一般的に行われている手術は、以下の2つの術式を中心として、幾つかの方法を組み合わせて行います。


1. 滑車ブロック形造溝術
軟骨を温存しながら滑車溝を深くするため『ダルマ落とし』のように「軟骨の下の骨を切除」して、溝を深くする。180824-4

2. 脛骨粗面転移術
膝蓋腱を溝の真上に移動させるため、脛骨(膝関節の下の骨)にある膝蓋腱の付着部を骨ごと切り、適切な場所に移動して手術用ピンで固定する。180824-5
    

・手術後について 通常6週間で骨を切った部分がある程度癒合します。それまでは安静が必要になります。走ったり、滑ったり、飛んだりしないようにしてください。安定した歩行を行うことができるようになるまでには、手術後少なくても3ヶ月かかります。
手術後に最も予想される合併症は再脱臼(10%前後)です。その他、固定に用いたピンの破断、移動した骨や切り込んだ部分の骨折、癒合不全、感染、手術創の離開などが考えられますが、再脱臼に比べてわずかな確率になります。合併症が起きた場合は残念ながら再手術が必要になります。

膝蓋骨脱臼の手術は将来起こりうる問題を予測して、それを予防するための手術です。一旦削れた硝子軟骨は再生しないため、手術をするのなら骨の成長状態を考慮しながらできるだけ早期に行うことが勧められます。

文中の画像はSurgeon No.110(INTERZOO社)及びJ-VET No.371(INTERZOO社)より引用いたしました

投稿者: 西向日どうぶつ病院

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